CONCEPT
本シリーズは円がもつ無限の数列と全ての色彩を含む太陽光を掛け合わせることで円と光の持つ神秘性を解体した作品です。私はこれまで、「循環」「輪廻」をテーマに様々な作品を制作してきました。今回のシリーズは「循環」「輪廻」の象徴とも言える「円」をモチーフとしました。「円」は神の象徴や悟りの境地の形など、永久機関の象徴、車のタイヤ、テストの◯等、私達の身近には古今東西様々な形で「円」があり、それは完璧、完全、秩序なるものとして扱われています。しかし、円周を求める円周率に目を向けると、上記とは無縁とも思える無秩序な数値の羅列です。その数列は一度として、同じパターンのループが存在しない「超越数」とされるカオスな系です。これは一見矛盾するように思えますが無限の情報が含まれた存在とものとして解釈できるのではないでしょうか。
同じように太陽が放つ光は何もないことを想起させる色である「白」でありながらすべての色のスペクトルを包括しています。これは先程の円の関係性によく似ています。そしてこの太陽は円で象徴的に表されます。
この2つに潜む要素、「円周率」と「スペクトル」を掛け合わせ0-9の数字に光の波長の色をそれぞれの数字に当てはめて円周率に落としこんだものです。これは「円」である「天」から降り注いだ光が「地」である「方」に反映された形です。円周率と光のプリズムを掛け合わせから織り成されるイメージは円が内包する無限の世界の一片を覗く行為に等しいかもしれません。
MATERIAL & COMPOSITION
使用した主な色材は墨とパール顔料です。パール顔料は通常の「減色法」の絵具と違い、「加色法」の構造になっており、「光」の象徴として捉えます。しかし、パール顔料は白地の上では色が感じにくいため、下地に黒を塗ることで色が表出します。パール顔料とは反対に「減色法」で混ぜると全ての色素を吸収する黒は全ての色を内包し、「影」と捉える事ができます。墨は煤と膠からできています。煤は植物の油、松の木を燃やして作られ、膠は動物の皮や骨を煮出して作られることから「死」の象徴と捉える事ができます。この性質から、「死」があることで「生」が彩られると捉え、パール顔料を「生」の象徴としています。